がんや難病などを告知された患者さんの「告知から5年以降」の情報を集めていく「AFTER5(アフターファイブ)」。第3回記事の公開です。
今回はアンケートに回答くださった方の中から、はぎわらさまにメールインタビューを実施しました。はぎわらさまは、大手出版社の部長職でハードワークをこなしながらの闘病と再発を経験し、現在は独立準備中。働くがん患者にとって、ひとつのロールモデルとなるお話です。
インタビュー日: 2020年3月
プロフィール
- 名前
- はぎわらゆみ
- 性別
- 1967年生まれ、女性。
- 家族構成
- 夫、娘。
- 病歴
- 2010年43歳で乳がんステージ2aの告知を受け、手術。ホルモン治療を続けている2016年に局所再発。二度目の手術を経て、現在もホルモン治療を継続中。
病気と治療について
── 病気が発覚した経緯を教えてください。
はぎわら: 当時(2010年)は会社で、年に一度の健康診断を受けていました。その項目の一つに乳がん検診もありましたが、再検診などに該当することはありませんでした。
その後、自分で、胸に脂肪の塊のようなものがあるのに気づきました。あまり深刻に考えてはいなかったのですが、一度ちゃんと調べてみようと思い、インターネットで近所の専門病院を検索しました。夫には「気になるから、一度検査に行く」と伝えて、ひとりで行きました。
エコーをみた医師に「何かあります」と伝えられ、その日のうちに生検の組織を取り、次の予約を取りました。2回目は、夫と一緒に行き、乳がんの告知を受けました。
── 局所再発を経て2度の手術を受けられています。治療の経過を詳しく教えてください。
- 2010年8月 一度目の手術(ステージ2A)
- 2010年9月~2015年9月 ホルモン剤(タモキシフェン)服用
- 2015年10月~2016年 6か月に一度の検診のみ、薬の服用無し
- 2016年7月 定期検診で、エコーで再発の疑いの所見。生検。
- 2016年8月 生検の結果、局所再発(ステージ2A)
- 二度目の手術(部分切除術)
はぎわら: 現在はホルモン剤服用と3か月に一度の検診を続けています。
── 副作用や術後の経過などによって、日常生活を送る上で困ったことはありましたか?
はぎわら: 最初の手術後、リンパの検査のために切ったところがとても腫れたのが痛かったです。ほかには幸いなことに、術後の痛みやかゆみなどの症状、薬の副作用もまったくありませんでした。
── 治療中、良かったことや助けられたことはありましたか?
はぎわら: 主治医の説明がとても丁寧で、質問にも的確に答えてくれて、安心できました。
仕事について
── 治療中のお仕事について教えてください。
はぎわら: 最初の告知を受けた際は、大手出版社で編集者としてフルタイムで働いていました。役職(部長職)にもついていました。
術後1か月だけ休職をし、その後復職をしました。
── 病気について上司への報告をする上で、不安はありましたか?
はぎわら: 当時の上司は、とてもいい人なのですが、逆に心配しすぎる傾向がありました。過剰に心配をされないよう、説明の仕方を事前に考えました。
── 具体的にはどのように伝えましたか?
はぎわら: 「がん」と聞いただけで、良かれと思って“仕事を制限される可能性がある”と感じました。なので、なるべく冷静に「手術をすれば、あとの日常は基本的に今までと変わらずに送れる」ということを強調して伝えました。
── その後、お仕事をする上で困ったことは?
はぎわら: 幸い、病気のせいで仕事に支障があったことはありません。
── それは働くがん患者にとってとても参考になります。同僚・上司の接し方で「良かったこと」や「助けられたこと」があれば教えてください。
はぎわら: わたしは術後の痛みや、薬の副作用もまったくありませんでした。なので、術後1か月だけ念のため会社を休みましたが、それ以外は術前と全く同じ仕事に戻ることができました。(主治医は、術後翌々日から復帰可能だと診断しましたが、上司から休む方がいいだろうと提案してくれました。代休・有休もたっぷりありましたので、経済的にも困ることがありませんでした)
復帰後は、仕事柄、どうしても残業が多くなってしまっていましたが、そういう時は、同僚が「早く帰った方がいい」と促してくれたり、元気がでそうな食べ物を差し入れてくれたりしました。
それ以外は、今まで通りに接してくれたことが、とてもありがたいと思いました。こちらからも病気のことは説明しましたが、同僚たちも気遣いながら、病状についてや気を付けてほしいことなどを尋ねてくれました。うまくコミュニケーションが取れていたと思います。
── 現在も同じお仕事ですか?
はぎわら: ある会社の専属フリーの立場に変わりました。
── 闘病をしながらの転職活動は大変なこともあるのではないでしょうか。
はぎわら: 転職しようとした先の上司は、病気に対する「思い込み」が激しく、治療のことなど偏見があるのが困りました。
── どのように、転職先に病気のことを伝えたのでしょうか?
はぎわら: 専属フリーの立場でしたので、正社員として関わったわけではありません。一応、2度の手術を受けたがんサバイバーであること、今は薬を服用しているだけで、なんの副作用も後遺症もないことを早いうちに伝えました。
── 病気に対する「思い込み」とは、具体的にどのようなものだったのでしょう?
はぎわら: 高齢の社長(その会社の社員は、社長のみ)だったので、ジャンクな食べ物を食べたり生活パターンが乱れているから、がんになる……のような、思い込みが激しいらしく、そのことについての「指導」が面倒でした。
実際には、食事にも気を付けて、生活も乱れてはいませんでしたので、雑談の中でそのことが伝わるようにしました。
また、病気だから、仕事も無理ができないと思い込んでいたようで、なかなか信頼して仕事を任せてもらえなかったのが残念でした。
── がんになった後に転職活動をするのは、勇気が必要な方もいます。転職活動のきっかけがあれば教えてください。
はぎわら: 最初のがんになった時に「もし再発することがあったら、会社を辞めよう」と自分では決めていました。かなりストレスフルな会社だったので、2度も体に出るということは、これ以上そこにいてはいけないと思ったからです。
それだけで決めたわけではありませんでしたが、このことが会社を辞める理由のうちの一つでした。
でも、担当していた子どもの本の編集者の仕事は、とても好きで、やりがいも感じていましたので、続けていくことは自然なことでした。結局、転職先での勤務は辞め、現在は自分で出版社を起業する準備をしているところです。
ご家族について
── 娘さんへは、病気のことをどのように伝えましたか?
はぎわら: 最初に告知を受けた際は、まだ幼かったので、いつ、どう、伝えるのか、決断がつかず、結局成長するまで病気を隠していました。
2度目の手術の時には、娘は14歳でした。十分伝えてもよい年齢でしたが、ちょうど学校でのトラブルなどで、本人のメンタルがとても不安定でした。なので、この時にも手術のことを伝えませんでした。
高校生になってしばらくした時、娘の乳腺トラブルがあり、どこの病院に行けばいいのかと相談を受けたので、自分の主治医の病院を紹介しました。その時に、「実は……」と、がんで、2度の手術を受け、今も薬を服用していることを伝えました。
── そのときの娘さんの反応はどんなものでしたか。
はぎわら: 「お母さんは、死ぬことはないんだよね?」と、確認されました。もう十分に大きくなっていましたし、正確に病状も伝え、実際に今なんの症状もないことは、一緒に生活していてわかっているので、すんなりと理解してくれたと思います。
その後、話題にすることもあまりないですが、たとえ風邪だとしても、具合が悪そうにしていると、とても心配します。きっと心の中では、やっぱり不安があり、心配もしているのだと思います。
── 病気の発覚からしばらく経ってから娘さんに伝えたことを、いまではどう考えていますか?
はぎわら: 結果的には、一番最良の時に伝えられたのではないかと思っています。年齢だけで言うと、もっと早く伝えても良かったのですが、ちょうど娘自身がつらかった時期には、避けておいてよかったと思います。
私自身の症状や娘の状態によっては、もう少し早く伝えていた可能性もありますが、結果はこれでよかったと思っています。
治療を経て、現在闘病する方々へ
── 告知からここまで2度の手術と転職を経てこられました。治療を進める中での気持ちの変化や、現在のお気持ちを聞かせください。
はぎわら: 一度目の手術の後は、少しでも身体に不調があると、心配になったり、検診のたびに不安になったりしていましたが、だんだんと病気であることに慣れてきました。再発は、さすがにショックでしたが、逆に開き直れた(?)ような気がします。
どんなに気を付けていても、不可抗力で病気になるときはなるんだなあ……というような感じでしょうか? 病気に囚われすぎても意味がないと、思うようになりました。
薬の服用や検診は、きちんと続けるけれど、それ以外は普通に日常を生きるのみだと思っています。
── 最初の告知から5年以上経過したはぎわらさまから、現在闘病している方に何かコメントをお願いします。
はぎわら: がんは、自分の一部ではあるけど、全部ではないと思っています。病気にのまれることなく、その時に一番最良と思うことを積み重ねることが大切ですよね。
時には、弱気になることもあるけど、その弱さも自分で自分にゆるすことも必要だと思っています。
お話を伺って
はぎわらさん、ありがとうございました。
今回特に印象に残ったのは、働きながら治療を続けることの難しさ。さまざまな考え方を持つ上司へ理解をうながすことは、一筋縄ではいきません。病気に対する思い込みをなくすには、患者自身の伝え方も重要だと感じました。一方で、いつも通りに接してくれる同僚にはとても救われるものです。
はぎわらさんの「編集者の仕事は、とても好きで、やりがいも感じていましたので、続けていくことは自然なことでした。」という言葉が印象的でした。好きなことを続けていく、諦めない気持ちが「自然」という言葉で表現されていて励みになります。
AFTER5では、引き続きインタビューに答えてくださる方を募集しています。あなたの体験が、誰かの希望になります。ご協力ください!